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乳がん、肺がんの両エキスパートが見たコロナ禍の臨床現場 大谷彰一郎先生×吉岡弘鎮先生 対談インタビュー (2)診療科間での情報共有/がん治療におけるメディカルスタッフの役割

乳がん、肺がんの両エキスパートが見たコロナ禍の臨床現場 大谷彰一郎先生×吉岡弘鎮先生 対談インタビュー(2)診療科間での情報共有/がん治療におけるメディカルスタッフの役割
大谷 彰一郎先生
1995年 岡山大学医学部ご卒業後、MDアンダーソンがんセンターでのご勤務等を経て、広島市立市民病院では主任部長、ブレストケアセンター長をお務めになりました。臨床で数多くの乳がん患者さんを診療されながら、数多くの臨床研究を手掛けるなど、乳がん領域の第一人者としてご活躍されています。ご高名な先生でありながら、気さくな語り口で我々の質問にも丁寧にお答えくださる、とても優しいご印象の先生です。 2021年、大谷しょういちろう乳腺クリニックをご開業、今後はより地域に根差した診療を目指されています。
吉岡 弘鎮先生
2000年 岡山大学医学部ご卒業後、神戸市立中央市民病院(現・神戸市立医療センター中央市民病院)、倉敷中央病院を経て、2017年より現職をお務めになっています。臨床で数多くの肺がん患者さんを診療されながら、臨床試験グループでは研究代表者としてご活躍されるなど、臨床と研究のどちらにも精力的に邁進されています。穏やかな中にも闘志を秘めた先生で、患者さんのためにといつも夜遅くまで働いていらっしゃるご印象の先生です。
免疫チェックポイント阻害薬など、複数のがん種に適応を持つ薬剤が数多く登場してきています。それらの薬剤について、院内での複数の診療科にわたる情報共有はどのように行っていますか。
吉岡先生:

当院ではがんセンター所属の医師が中心となり、免疫関連有害事象(irAE)対応チームを作りました。私は呼吸器内科という立場から薬剤性肺炎のコンサルタントとして参加していますが、関連する各科の医師でチームを作っています。

他科の医師から「肺に影がでてきたので診てほしい」という連絡をもらったら、専門家として意見を伝え、診療のお手伝いをしています。必要であれば私の外来で定期フォローアップをすることもあります。

反対に、私が困った時、例えば、循環器系のirAEが出た際には、循環器の専門医に電話を掛けて、アドバイスをもらっています。

実際にirAEの対応方法や薬剤の中止基準などの共有は行われていますか。
吉岡先生:

院内のirAE対応チームで、各科の専門医が「初回治療開始前にこの項目を必ず測りましょう」という検査セットを作っています。さらに、「こういった症状が出たらコンサルトしてください」というような症状や所見の一覧表を作って病院全体で共有しています。

呼吸器内科が先行して免疫チェックポイント阻害薬を使用できるようになった中で、乳がんでも免疫チェックポイント阻害薬が使用できるようになってきました。乳がんの専門医から呼吸器内科の専門医に聞いてみたいことはありますか。
大谷先生:

広島市立市民病院は5年程前から複数の免疫チェックポイント阻害薬の治験に参加していて、免疫チェックポイント阻害薬を扱う機会は多かったんです。irAEは今までの抗がん剤の副作用と違い、結構怖い思いもしました。本当に侮ってはいけない薬剤だと思いますね。

間質性肺炎は、パクリタキセルのような薬剤で経験していて、その対応にも慣れているのですが、甲状腺や副腎の機能などは診ることはありませんでしたから。

当院も、吉岡先生の施設と同様に、irAEチームの中に内分泌内科の先生にも入ってもらい、「免疫チェックポイント阻害薬を使用する前にはこの検査をするように」というセットを作ってもらいました。乳腺外科医では通常測ることのない、甲状腺機能や副腎機能もしっかり確認するようになりました。irAEチームに参加した内分泌内科医からは、「忘れた頃にirAEが発現するからしっかり測るように」と言われました。

乳腺外科と呼吸器内科は、免疫チェックポイント阻害薬を使用する前から間質性肺炎に関して相談することもあり、仲良くしていましたが、内分泌内科はコンサルトされることはあっても、こちらからコンサルトする機会はなく、免疫チェックポイント阻害薬を使うようになる前はご縁のない診療科でした。

ですが、下垂体不全で副腎不全になり、ショックでICUに入ってしまうようなirAEのケースを実際に経験したことで、今までの抗がん剤の副作用とは違う観点、関わる可能性がある診療科全員で副作用をマネジメントしていこうという方向性になっていきました。

このようなirAEチームを作って良かったのは、困った時に電話を掛けられる相手が何人もできたということですね。電話1本掛けるにも、全く関わりのない診療科に掛けるのは思った以上にハードルが高いです。

乳腺外科と呼吸器内科は連携が取りやすいというお話でしたが、逆に連携が取りにくいと感じる場面はありますか。
吉岡先生:

なかなか回答は難しい質問ですね(笑)。たとえば免疫チェックポイント阻害薬を投与している患者さんに関節痛が出た時は、薬剤が関係しているのかそうでないかを見極めるのは難しいと感じますね。専門医に相談しても症状や所見が診断基準にあてはまらないことがあり、結局私自身でirAE関節炎と判断してステロイドを投与するなど、手探りで治療しているのが現状です。そういう時に積極的に助けてくれる先生がいると心強いのですが、自分の領域の中に入らないものはあまり診たくないという先生もいるのが現状かもしれません。

大谷先生:

吉岡先生と同じようなことは感じています。普段から関わりが少なくて、一度でも煩わしいといった対応をされてしまうとコミュニケーションは取りづらくなってしまいます。irAEは早く見つけて早く適切な対応を取ることが肝心ですので、irAEの対応をしてもらう、他診療科の医師に電話しやすい、コンサルトしやすい環境を作っておくことが大事だと思います。

幸いなことに、広島市立市民病院では甲状腺機能や副腎機能に少しでも異常があれば内分泌内科で相談に乗ってもらえる環境があります。

吉岡先生:

irAE対応チームを作っても、皆さんお忙しいですし、コロナ禍のため会議もできず、なかなか綿密にコミュニケーションを取るのは難しいと感じています。そこで、製薬企業何社かとタイアップして、irAEの研究会を計画しています。あまりirAE対策に積極的ではない関連診療科の医師を講師として招いて、コミュニケーションを図る機会を作っていきたいと思っています。

なかでも今、特に進めたいと思っているのは、神経内科医とのコラボレーションです。稀ですが重篤になり得るirAEの一つである重症筋無力症や脳炎に関して、神経内科の先生と一緒にirAEを勉強する機会を設けたいと思っています。

大谷先生:

製薬企業にバックアップしてもらうことによって、興味のない診療科の医師にもirAE対応を頼まれたら協力してもらえる状況を吉岡先生は作り出そうとしているのではないかなと思います。

続いて、大谷先生が乳がんで期待されている新薬はありますか。
大谷先生:

乳がんで使用できるようになったADC抗体薬ですね。これは本当に期待できる薬剤で、乳がん治療を根本から変えるパワーを持っていると感じます。様々ながん種で開発されていますが、HER2が少しでも発現していれば効果を示す、非常に可能性がある薬剤ですね。

もちろん、副作用はそれなりにあります。発表されているデータを見ても間質性肺炎には留意しなければなりません。製薬企業もそのところはよく理解していて、発売当初は乳腺専門医と呼吸器専門医が在籍している施設から慎重に普及させようとしていました。そうやって薬剤が適切に使われるようにしたんですね。

広島市立市民病院でもADC抗体薬を使い始めるにあたり、呼吸器内科医と何を測るべきかを確認しました。それまで我々乳腺外科医は、抗がん剤を使用する際に呼吸器機能、肺活量など測ったことがありませんでしたが、今は呼吸器内科医からのアドバイスで測ったほうが良いとされる項目を常に測るようにしています。

そして、実際に何か問題が起こった際には、呼吸器内科医に迅速に対応してもらっています。

呼吸器内科医から見て乳腺専門医との連携はいかがでしょうか。
吉岡先生:

ADC抗体薬のILDについて、私が所属するirAE対応チームで対応した経験はまだないのですが、免疫チェックポイント阻害剤以外の抗がん剤による肺障害については呼吸器感染症内科が対応してくれています。

リモート対談の様子
様々な副作用が発現する抗がん剤がある中で、先生方だけでなく、副作用をチェックする看護師や薬剤師とはどのような連携をしていますか。
吉岡先生:

当院の場合、通常の外来と化学療法センターの外来の2種類があるのですが、通常の外来では、体調が優れない患者さんからの電話に看護師さんが対応し、必要に応じて我々医師につないでくれたり、外来で体調が悪い患者さんを早めにチェックして早期対応の必要性について相談してくれるなど、初期対応のサポートをしてくれています。

もうひとつの化学療法センターの外来では、化学療法中に起こった副作用について、例えば皮膚障害が酷い場合には、「皮膚科に紹介してはいかがでしょうか?」とアドバイスをしてくれています。このように私が直接診察していない時の副作用に対するサポートは、個人的に非常に助かっています。

先生によっては看護師さんや薬剤師さんから助言されることに慣れていない先生もいるようですが、やはり今後はがんの専門医と看護師さんや薬剤師さんがしっかりと連携していかないといけないと思っています。

大谷先生:

広島市立市民病院は薬剤師外来に特徴があって、経口抗がん剤やホルモン剤を投与されている患者さんは、私が診察する前に薬剤師さんが診てくれて、副作用のグレーディングもしてくれています。

薬剤師外来を設けることで、しっかりとグレーディングをして、確認できるようになりました。

化学療法室にも常勤の薬剤師さんが抗がん剤のCTCAE*のグレーディングをきっちりと行ってくれているので、大変助かっています。

*CTCAE:米国国立がん研究所(NCI)によって策定された有害事象(AE)共通用語規準

また、あらかじめ薬剤師さんに話を通しておけば、特定の薬剤を投与する際に、腎機能を測ってくれたり、B型肝炎の抗体を調べてくれたりもしています。

医師はどちらかというと治療効果をメインに見ていることが多いため、副作用を厳密にコントロールして、スクリーニングしてくれる薬剤師さんがいてくれるというのは、我々医師にとって本当に感謝しかないです。

実際に何か副作用が起きれば、色々と指示してくれたり、投与しているレジメンも確認してくれて、「前回減量していますけど、今回は大丈夫ですか?」と薬剤師外来の結果がカルテを立ち上げるとすぐにフィードバックされるシステムになっています。そう考えると、当院の薬剤師外来は本当に発達してきています。もしかすると、がん治療において一番助かっている部分かもしれませんね。

吉岡先生:

それは羨ましいですね。当院は薬剤師さんが足りておらず、抗がん剤の調整も時間帯によってはギリギリでされている状況です。1日に120人ほどの患者さんが外来化学療法センターで化学療法を受けますが、36床しかないため、1床が3回転以上するという、かなりタイトなスケジュールで運用されています。薬剤師さんが抗がん剤を調整するスペースも増加する患者数に対しては手狭になっており、薬剤師さんを増えたとしても、作業スペースの問題も出てくるかもしれません。

外来化学療法を受ける患者さんが多いため、今は薬剤師外来をできる状況ではなさそうです。

むしろ看護師さんのほうに期待しています。看護師外来ができればよいのですが、そうでなくても、現在、抗癌剤治療中にベッドサイドで副作用をチェックをしてくれています。

がん治療に関わるメディカルスタッフにとって副作用チェック、グレーディングというのは必要なスキルなのでしょうか。また、そのような勉強をしてきたスタッフががん診療に携わっていくというのが通常なのでしょうか。
吉岡先生:

共通言語として副作用のグレードがいくつと言えば、ある程度どのくらいの副作用なのか理解することができますので、看護師さんにも薬剤師さんにも有害反応(副作用)のグレーディングを理解してもらいたいと思っています。当院でも意識の高い看護師さんは理解されており、すでにCTCAEのスケールを用いてグレーディングしてくれています。

がん診療に関わる看護師さんや薬剤師さんを認定する動きが出てきていますが、がんの認定を取っている薬剤師さんや看護師さんは増えてきていますか。
吉岡先生:

私の身近な所ではここ数年は大きくは変わっていないように感じますが、長期的には少しずつ増えてきていると思います。

大谷先生:

広島市立市民病院は薬剤部のトップにやる気があって、我々臨床医とも仲が良かったので、薬剤師さんに様々な認定を取ってもらおうという動きがあり、徐々にその数も増えてきています。

がん化学療法認定看護師は、看護部との兼ね合いでなかなか増えそうで増えないのが現実です。恐らく吉岡先生の施設でもセクションのトップとの関係が非常に大きく影響するのではないでしょうか。

吉岡先生:

認定看護師の話になると、看護部長まで話が届きますね。

大谷先生:

認定看護師を生かすには、それを生かすためのお金や色々な問題があって、なかなか臨床現場で認定を取った看護師が増えないですよね、吉岡先生?

吉岡先生:

看護部は病院全体を見なければいけませんので、化学療法センターばかりに人材を配置するわけにはいかないようです。なかなか敷居が高い印象です。

そうなると、がん診療を目指したい看護師さんを自分の診療科に留めておくのは難しいのでしょうか。
吉岡先生:

看護師さんは完全に看護部の指揮下で動いているので、難しいですね。外来化学療法センターの熟練の看護師さんが急に血液内科の外来に異動になるということもありますから。我々には触れられないところです。

大谷先生:

吉岡先生のおっしゃることは分かります。熟練の看護師さんを手元に残そうと考えても、異動してしまいますもんね(笑)

看護師さんが自分の診療科で非常に役立っているということはアピールしても良いのですが、「ここに置いてほしい」というのは色々と問題が出てきてしまいます。看護師さんの担当診療科が変更されるのは日常茶飯事なので、そこについては仕方がないのかなと思っています。

看護師さんを新しく育てていく際に、看護師さんにやる気になってもらうコツのようなものがあれば教えてください。
吉岡先生:

看護師と医師は職種が違うので、看護師さんは看護師さんから教えてもらう形になります。

我々は作用機序やこのような副作用が発現するといった医学的な基本を話すことはできますが、やる気になってもらうためにできることは本当に感謝を伝えることでしょうね。

大谷先生:

医師の時と同様に、頑張ってくれている看護師さんには製薬企業が企画した講演会で、我々の講演の前に化学療法室の現場での話を色々としてもらう機会を設けて、やる気を出してもらうようにしています。

吉岡先生がおっしゃられるように、結局、ありがとうと心から言い続けることしかないんだと思います。

ただ、勉強したい看護師さんもいますので、製薬企業さんにアイディアを出してもらい、勉強する機会を設けていけたらいいなと思っています。

看護師さんなどメディカルスタッフに対する勉強会で面白いなと思った企画はありますか。
大谷先生:

今、コロナ禍で対面での企画をすることは難しいと思うんですけど、Zoomで看護師さんが自宅で家事をしながらでも聞けるようなものを企画している製薬企業がありました。方向性としては間違っていない気がしています。

吉岡先生:

看護師さんと一緒に参加できるirAE勉強会は結構行われています。ただ、Webになると参加率はあまり良くないです。

看護師さんの場合、パソコンを持っていなかったり、Web会議システムの扱いに慣れていなかったりするので、医師のようにはいかないと思います。あと、看護師さんは家庭がある人がほとんどなので、仕事だけに集中できるような環境にある人はごく一部です。ですから、Webで勉強会を設けても参加が難しいところがあります。

将来的には、もっとZoomなどのオンライン講演会が浸透すれば、食事をしながらでも視聴できるようになり、より参加しやすくなるかもしれません。

大谷先生:

大学病院というのは、我々の市民病院に比べると横の組織のつながりが難しいんじゃないか、大変なんじゃないかと思うんですが、その辺り、吉岡先生はどのように上手くやられているんでしょう。

吉岡先生:

努力はしているのですが、なかなか難しいですね(苦笑)

大谷先生:

大学病院はセクションがきちんと分かれているから、難しいですよね。診療科は診療科、看護部は看護部、薬剤部は薬剤部としっかり分かれていますから。縦はしっかりしているけど、横がなかなかつながりにくい、そんな中で吉岡先生は、横の組織がつながりやすいように一生懸命頑張って、それこそありがとうという言葉で、上手に業務を行っていらっしゃるのだと感じました。

―「診療科間での情報共有/がん治療におけるメディカルスタッフの役割」に関して、コンサルタントからのコメントー

免疫チェックポイント阻害薬は、適応がん種の広さ、レジメンのバリエーション、有害事象のプロファイルの特殊さなどから、他診療科の先生や複数のがんを扱う看護師さんや薬剤師さんといったメディカルスタッフとの連携がとても重要です。医療機関という組織の中で横のつながりを作ることが難しいとのお話がありましたが、そのような課題こそ複数の診療科を回っている製薬企業のMRの腕の見せ所ではないでしょうか。そのような活動を通じて、ぜひ自社製品の適正使用、適切な副作用マネジメントに貢献してほしいと思います。

椎名 秀一
国際ライフサイエンス株式会社
医薬品マーケティング&コンサルティング
ヘッドディレクターおよびコンサルタント

1999年、3年間の金融機関勤めを経て国際ライフサイエンス株式会社に入社。以降、20年以上にわたり、国内外の製薬企業の営業、マーケティング、メディカル部門の課題に共に取り組む。製薬企業の本社、営業所向けの研修のほか、医師会、薬剤師会向けの講演会も行い、医療従事者とのネットワークも豊富。

※本対談インタビューは2022年7月31日までの公開です

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