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乳がん、肺がんの両エキスパートが見たコロナ禍の臨床現場 大谷彰一郎先生×吉岡弘鎮先生 対談インタビュー (1)コロナ禍で院内・地域で起きたこと

乳がん、肺がんの両エキスパートが見たコロナ禍の臨床現場 大谷彰一郎先生×吉岡弘鎮先生 対談インタビュー(1)
大谷 彰一郎先生
1995年 岡山大学医学部ご卒業後、MDアンダーソンがんセンターでのご勤務等を経て、広島市立市民病院では主任部長、ブレストケアセンター長をお務めになりました。臨床で数多くの乳がん患者さんを診療されながら、数多くの臨床研究を手掛けるなど、乳がん領域の第一人者としてご活躍されています。ご高名な先生でありながら、気さくな語り口で我々の質問にも丁寧にお答えくださる、とても優しいご印象の先生です。 2021年、大谷しょういちろう乳腺クリニックをご開業、今後はより地域に根差した診療を目指されています。
吉岡 弘鎮先生
2000年 岡山大学医学部ご卒業後、神戸市立中央市民病院(現・神戸市立医療センター中央市民病院)、倉敷中央病院を経て、2017年より現職をお務めになっています。臨床で数多くの肺がん患者さんを診療されながら、臨床試験グループでは研究代表者としてご活躍されるなど、臨床と研究のどちらにも精力的に邁進されています。穏やかな中にも闘志を秘めた先生で、患者さんのためにといつも夜遅くまで働いていらっしゃるご印象の先生です。
2020年4月の緊急事態宣言発出後から1年間を振り返っていただいて、がんの患者さんの動向、治療内容に変化はありましたか?
吉岡先生:

当院では内視鏡検査や手術前、入院前に必ずコロナのPCR検査を実施し、陰性を確認してから検査・治療を行うことが義務付けられています。

がん患者さんの増減という点では、当院はあまり影響を受けませんでした。関西医科大学では分院の総合医療センターがコロナ専用病床を52床持っており、そのうち、20床がICUと全国の大学病院の中でも類を見ないほど充実させておりました。そのため、大学病院(本院)は本来の大学病院の機能を維持するという役割分担をし、患者さんはあまり減りませんでした。

それともう一つ、近隣で肺がん診療を行っていた施設がコロナ診療の影響を受け呼吸器内科を閉鎖する事態となりました。そこで、その施設で診ていた肺癌患者さんを当院でお引き受けすることになり、結果的に当院の患者さんはコロナ前よりもむしろ若干増えた印象があるくらいです。

大谷先生:

吉岡先生のところのようにコロナ感染症を前面で診ていかなければならない呼吸器内科とは違って、私は乳腺外科、乳腺腫瘍内科をメインにしているため、コロナ感染症の診療に出ることはありませんでした。もともと広島市立市民病院は乳腺外科を乳がんの手術、薬物治療に特化させていて、良性疾患は近隣の乳腺クリニックで治療してもらっていたんです。そのため、患者数が減ったということはなかったですね。

開業してみて感じたのは、さすがに乳がんを治療している患者さんは緊急事態宣言が出ても治療をキャンセルされることはないのですが、乳がん検診は減っているかもしれません。検診はわざわざ今行かなくても良いと考える人もいると思いますので、どちらかというとクリニックベースでは患者数が減っている可能性はあります。

検診が先送りされてしまうことで、がんが進行した状態で見つかる患者さんが増えたといったことを聞きます。そのような変化はあったのでしょうか?
吉岡先生:

初診時点で著しく進行している症例が少し増えたような印象がありますね。府内の他院では、コロナのアウトブレイクで肺がん診療が2ヵ月ほど遅れてしまい、積極的治療ができないまま病状が進行し亡くなってしまったという例もあると聞いています。

大谷先生:

コロナ感染症が流行してからまだ1年程度と短い期間なので、そこまで重症例が増加しているという印象はありません。ですが、これからコロナ感染症が長引き、5年程が経過すると重症例が多いという印象に変わるかもしれないとは思います。

コロナ禍でのがん治療に何か変化はありましたか?
吉岡先生:

肺がん患者さんご自身から治療内容を変更してもらいたいといったような依頼をされることはほとんどないのですが、問診のたびにコロナワクチンについて聞かれるようになったことが変化と言えるかもしれません。

進行がんの場合、治療を開始している患者さんが投与間隔や通院間隔を延長してほしいとおっしゃることは皆無ですね。

一方で、化学放射線療法が終了し長期間経過観察しているような、病状が落ち着いている肺がん患者さんからは、次回CT検査日を相談した際に「もう少し先にしたい」とCT検査日の先延ばしをお願いされることがしばしばあります。

大谷先生:

転移性再発乳がんの場合も、命に関わってくることを患者さんが理解していますので、治療を先延ばしにすることは皆無ですね。

術後フォローアップ中で、3ヵ月に1回経過観察している患者さん、特に都道府県をまたいで来院してくる患者さんからは、電話診療で処方箋だけ送ってもらいたいという要望が増えています。県をまたいで受診すると、2週間は自主隔離しなければならなくなり、誰とも会えなくなってしまうからです。

実際にコロナ禍でオンライン診療を導入してみていかがだったでしょうか。普段の問診との違いはどんなところにあるのでしょうか。
吉岡先生:

オンライン診療と言っても、Web上ではなく、電話診療がメインです。電話で患者さんに対して「体調が変わりなければ、1ヵ月分抗がん剤を処方しましょう」というやり取りが多いですね。特に、分子標的治療薬を内服している患者さんは電話診療によって来院回数を減らすことが可能になっています。

基本的には共同意思決定(Shared decision making)が最も大切であり、検査間隔などを話し合って決めていれば、しばらく検査を行わなくても特に問題にはならないですね。コロナ前でも、患者さんのお顔を拝見して問題がなければ患者さんと相談の上で検査なしで1ヵ月分の薬剤を処方することもありました。そのような外来が電話診療に変わっただけだと認識しています。

大谷先生:

乳がんでは、元々ホルモン剤を3ヵ月ごとに来院してもらって処方していたのですが、来院の代わりに電話診療になり、処方箋をFAXして地元の調剤薬局で調剤してもらう形になりました。

最近、開業したこともあり、サービスの一環としてオンライン診療にも取り組まないといけないと考えて導入しましたが、電話診療と比べると、オンライン診療のほうが時間が掛かる印象です。オンライン診療だとお互いの顔が見えて、患者さんがあれこれと治療に関係ないことも含めてお話をしたくなってしまうようです。

いずれにしても、コロナ禍では、電話診療を始めとするオンライン診療は必要不可欠でしょう。診療報酬が上がっていけば、もっと活用されるのではないかと思います。

吉岡先生:

大谷先生、肺がんの患者さんの年齢は中央値で75歳を超えてきており、高齢化が進んでいることもあって、スマートフォンやPCを持ってない患者さんも結構な割合でいます。よってオンライン診療は難しいケースもあります。一方、乳がんの患者さんは若い方が多いから、多くの場合、問題なくオンライン診療に対応できるんですね。

大谷先生:

吉岡先生のおっしゃる通り、私が今診ている乳がん患者さんは60歳よりも若い年代が多いです。若い患者さんは「オンライン診療をしてみたら案外簡単だった」と言って喜んでくれます。

しかし、コロナワクチンの予約もインターネットでの申し込みにご高齢の方が困っているように、ご高齢の患者さんにオンライン診療をするのはなかなか難しいのが現状です。

コロナ禍でがん診療について、地域の医師会などとの取り決め、ルール化などはあったのでしょうか。
吉岡先生:

私の地域では特に医師会などとの取り決めはありませんでした。

大谷先生:

広島も医師会とがん診療に関して取り決めをするようなことはありませんでした。医師会はコロナ禍の状況を何とかするのに一生懸命であり、その先にあるがん診療まではとても手が回らないのでしょう。

開業してみて医師会とのつながりは当然強くなりますが、コロナ禍では「早くワクチンを打ってください」と言われるくらいでした。国も、医師会も、コロナの先にある患者さんそれぞれの疾患にまで気を向ける余裕がないのでしょう。

吉岡先生の呼吸器内科は、専門の肺がんだけでなく、コロナ感染症も診なければならないという先生もいて、矢面に立たされていると思います。我々乳腺外科医には門外漢の領域なので、その辺りが吉岡先生とは置かれている立場が全く違います。

吉岡先生:

大谷先生が仰るように、呼吸器内科を標榜していると、肺がんもコロナ感染症も診なければならなくなってしまい、近隣の医療機関でも辞めてしまった呼吸器内科医を何人も知っています。私の後輩も、「がんに加えてコロナ感染症も診なければならず、これ以上診ることができない」と疲れ切って辞めてしまったケースが残念ながら実際にありました。

当院の場合、呼吸器感染症科と呼吸器腫瘍内科に分かれているため、呼吸器感染症科がコロナ感染症を診てくれています。彼らのおかげで、私はがん診療に集中できています。

―「コロナ禍で院内・地域で起きたこと」に関して、コンサルタントからのコメントー

これまでがん患者さんを多く診ていた施設が、コロナ診療によって周辺施設にがん診療は頼らざるを得ない、症状が安定している患者さんは自宅近くの医療機関でフォローアップを希望するなど、コロナ感染症流行によって地域における患者さんの流れ、診療圏に変化が起きている可能性があります。製薬企業のMRは、自分が担当する地域、医療機関のがん患者さんにどのような変化があるのか、再度確認してみると良いのではないでしょうか。それによって情報の内容や情報提供の対象を変える必要もあるかもしれません。

椎名 秀一
国際ライフサイエンス株式会社
医薬品マーケティング&コンサルティング
ヘッドディレクターおよびコンサルタント

1999年、3年間の金融機関勤めを経て国際ライフサイエンス株式会社に入社。以降、20年以上にわたり、国内外の製薬企業の営業、マーケティング、メディカル部門の課題に共に取り組む。製薬企業の本社、営業所向けの研修のほか、医師会、薬剤師会向けの講演会も行い、医療従事者とのネットワークも豊富。

※本対談インタビューは2022年7月31日までの公開です

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